今生まれた乳飲み子のように
現世に生まれる前に、前世で生きていた。三百年前にどこかで生きていたとか、千年前にどこかで生きていたとか、中には釈尊がインドで法を説いていた時代に、自分は生きていたとか、言っている人がいます。
人間にはそのような前世があると言って、前世があるのだから、現世で正しい生き方をしていれば、業(ごう)を果たすことができる、そうして人間本来の幸福を得るということを宣伝している宗教があるようです。
七度生まれるという考え方が漠然として日本人の中にあるようですが、本来仏法にはそういう教えはないのです。どこでどう間違えたのか、そういうことを考えている人がいるのです。これは全くの妄念です。
妄念というのは、とんでもないばかばかしい考えなのです。妄というのは、嘘偽り、淫らということであって、正当でない、淫らな考え方を言っているのです。ある宗教でも、生まれかわりを言います。現世で業を果たしていれば、来世では幸いな生まれかわりをすると言うのです。
人生は何か重大な秘密があるように思えてなりません。現在の人間は、とんでもなく間が抜けた所があるようです。それは、何のために生きているのかということを知らないことです。だから、人生についてでたらめな考え方をして生きておれるのです。
現世における秘密は何かと言いますと、この世は非常に不公平ということです。不公平という言葉では言い現わせない位、不公平です。でたらめというか、滅茶苦茶というか、形容ができない位にでたらめです。真面目に暮らすことは、かえってばかを見るようにできています。
人間はでたらめに生きています。これを妄生と言いますが、妄念を持って妄生しているのです。
何のために生きているかを知らないで、ただぼゃっとして生きている。それで、現世では不幸であったが、もう一度生まれたら幸いになるかもしれないことを目当てにして生きているのです。人間は何となくそう思っているのです。これがとんでもない間違いです。
ある宗教では、現世で悪因縁を断ち切っておけば、因縁がきれいになる。そうすれば、来世では幸いな所に生まれるというのです。ひょっとしたら、皇太子に生まれ変わるかもしれないと考えるのですが、皇太子に生まれたとしても、幸せにはなれないのです。人生の幸せとはそんなものではないのです。
皆様は本心ではそのことをよく知っているのです。ところが、妄念のために分からなくなっているのです。
この世の思いのために、マイホームのつまらない生活の雑念のために、肝心要の本当の幸福を忘れてしまっているのです。
「今生まれたばかりの乳飲み子のように、混じりけのない霊の乳を慕い求めなさい」という言葉が、新約聖書ペテロの第一の手紙の中にあります。幼児が乳を慕うとはどういう状態かということなのです。
これは、人間は生まれながらにして、乳を慕うことを知っているという心理状態のことです。今生まれたばかりの幼児が、なぜ乳を慕うことを知っているのでしょうか。これなのです。
幼児には、確かに前世があったらしいのです。ところが、その前世は、宗教で考えているような前世とは違うのです。
ある宗教の人々は、人間は生まれ変わると言いますが、それでは今の人生は何回目に生まれ変わったのかと聞いても、全然答えられないのです。
もし、今の人生が七回目で、これ以上生まれ変わらないとすれば、家も金も捧げて、悪因線を断ち切ったとしても、その後でどうするかということなのです。全くあげ損になってしまいます。もう一回生まれてこそ幸せと言えるのですが、もし生まれ変わらないとしたら、全く無意味なことになるのです。宗教はそういうものなのです。
般若心経や聖書は、そんなことを言っていません。宗教は、人間が人間のために、人間が造った人間の教えです。宗教とは教条です。全て教条と名のつくものは、人間が造った教えです。
ところが、人間はよく考えてみますと、両親の性欲によって生まれたのです。このことを仏教では、無明煩悩の落とし子だと言っています。無明煩悩の落とし子である人間の頭は、無明長夜の眠りに落ち込んでしまっているのです。頭が煩悩でいっぱいなのです。
憎んだり憎まれたり、嫉んだり、妬んだり、嘘をついたり、ごまかしたり、そういうことばかりをしているのです。
朝、人に出会って、お早うございますと挨拶をすることに、もう嘘が入っているのです。幾分かの嘘が入っているのです。
お宅のお子様たちはかわいいですねえという世間並のあいさつが、もう嘘なのです。人間は嘘百パーセントの生活をしていますから、妄生です。何をどう考えたらいいのか分からないのです。その頭で宗教を造っているのです。
それで、一体、救いがあるのでしょうか。無明煩悩でいっぱいつまった頭で、仏とか神とかいうのです。だから、間違ってしまうのです。それは仏法とは違います。
お釈迦様が悟ったのは、仏法です。今、世間に寺をかまえて金もうけをしているのは、仏教なのです。釈尊の悟りは、仏教とは関係がないのです。色即是空、空即是色が釈尊の悟りでありまして、五蘊皆空と照見した、一切の苦厄を度した、一切の人間の煩悩から離れたということが、釈尊の悟りですが、今のお坊さんは、煩悩の中にどっぷりつかっているのです。
金と埃はたまるほど汚いと言いますが、たまるのが好きでたまらないという人ばかりがお坊さんをしているのですから、仏教界は堕落するばかりなのです。
皆様は、本当の幸福を知っていながら認識していないのです。知っていることと、認識していることは違います。
知っていることは、深層意識的、又は潜在意識的に知っている場合です。認識することは、はっきり顕在意識を持って、寒いとか、おいしいとか、甘いとかいうことをはっきり意識できる状態において知っていることです。
皆様は、何十年か前には赤ん坊でした。生まれたその日に、静かに眠り、時々笑っていたのです。いわゆるベビースマイルというものです。これは一体なんでしょうか。
生まれたばかりの赤ん坊は、何の経験もありません。もし経験がなければ、笑うはずがないのです。しかし笑っているのです。そうすると何かの経験があるということです。
その経験とは、前世の経験です。これは、宗教でいう前世とは違います。ある宗教では、人間は何百年前に、どこかで生きていたとか、アメリカで生きていたとか、ロシアで生きていたとか、お釈迦さんの孫であったとか言っているのですが、それは妄念です。
人間の魂は、どこかから出てきたのです。生まれてきたというのは、どこかからきたことなのです。その証拠に、生まれたとたんに笑っているのです。その笑いは夢を見て笑っているかというと、そうではないのです。夢は人間が生きている時の経験を見るのです。人生経験に関係があることがらを夢見るのです。
赤ん坊が笑っているのは、眠っているのではなくて、起きているのです。夢ではないのです。生理的に寝ているという形で、神の国に生きているのです。
目も見えず、耳もまだはっきり聞こえない。ですから、赤ん坊には人生経験は全くないのです。
ところが、赤ん坊は寝ている時こそ正気なのです。赤ん坊は生まれてから一週間か十日程、寝続けているようですが、たまに起きてはお乳をすうのです。そして、又寝てしまうのです。
そういう状態をくり返しているのですが、寝ている時に、赤ん坊は生まれる前の国にいるのです。魂がもといた国にいるのです。しかもそこはすばらしい幸いな国なのです。本当に心から笑えるような国なのです。
そういう経験を、皆様はしていらっしゃったのです。ところが、だんだん変わってくるのです。三歳で神童、二十五歳で妻子を持ち、三十すぎればただの人、四十すぎれば大馬鹿者となるのです。人間は、年をとればとる程、ばかになるのです。魂に皺がよるからです。
魂が縮むのです。そして恍惚の人になってしまうのです。恍惚になるのは、人間が不正直でいんちきだからなのです。正直な気持ちになっていれば、人間は恍惚にはなりません。
赤ん坊が乳を飲むのはどういう状態かと言いますと、赤ん坊は生まれる前に神の国で遊んでいたのです。その意識が、そのまま現世につながっているのです。
そこで、赤ん坊はすやすやと寝ているという形で起きている。時々、神の国にいた時と同じ味を求めて、母親の乳を求めてくるのです。
母親の乳の味は、神が人間の魂を養っている感覚なのです。その感覚を赤ん坊は知っているのです。
「今生まれたばかりの乳飲み子のように、混じりけのない霊の常識や知識に関係なく、人間が生かされている状態そのままの心で生きなさい」ということです。
目が見ているその心、耳が聞いているその心、つまり常識で物を見ないで、目の輝きだけで物を見るのです。耳の働きだけに従って聞くのです。
「あなたがたの目が正しければ、あなたがたの人生は明るくなる。霊魂が全体的に明るくなる」とイエスは言っているのですが、そういう目の使い方が、正しいのです。赤ん坊の乳の飲み方は正しいのです。大人がビールを飲むのとは違います。
赤ん坊は、生まれる前の、純真無垢な状態で、母親の乳を求めているのです。
何の経験もない赤ん坊が、神の国だけを経験しているのです。これが生まれる前の霊の経験です。生まれる前の霊の経験の継続として、お母さんの乳をさぐりにくるのです。
生まれたばかりの赤ん坊が乳を飲む力は、なかなか強いようです。ぐいぐい飲むのです。そういう確信のある飲み方をするのです。迷っていません。
これは、生まれる前に、すばらしい自信のあることを経験していたからです。お母さんの乳を求めるという感覚、経験、それと同じ感覚を、生まれる前に経験していたのです。
このように、皆様は、かつて神を経験しておられたのですが、今はばかになってしまったのです。ですから、もとの状態に帰ればいいのです。どうしたら帰ることができるのか。本当に目は何を見ているか、耳は何を聞いているか、心臓が動いている状態は何であるか、人間の生理桟能の不思議さ、偉大さに気づかれて、自分の魂をじっと見つめる状態になりさえすれば、生まれたばかりの赤ん坊の時の、あのすばらしい感覚がもう一度甦ってくるに決まっているのです。
その状態を信仰というのです。神を信じるとは、その状態なのです。これは宗教ではありません。
一般の宗教は教条を教えているのです。私は、人間の命が経験している事実をお話ししているのです。
皆様がかつて経験した事実が救いなのです。共産主義思想のことを、中国共産党では教条と言っています。共産党も一つの宗教です。人間のために、人間が造った、人間の教条が宗教なのです。社会主義でも、共産主義でも、哲学でも、倫理道徳でも、人間の造った主義、主張は、すべて宗教類似の思想なのです。こういうものは、皆嘘です。今生まれた赤ん坊が乳を求めること、これだけが本当なのです。
これは難しい話ではありません。難しいと言えば難しいかもしれませんが、妄念を去ってしまえば、何でもないことです。
般若心経は五蘊皆空ということ、人間の常識や知識は皆間違っていると言っているのです。この原点に立って、イエスが言った所の父なる神を見ることです。
しかし、人間の考えが間違っていることが分かっただけでは救われません。そこで、神の国を認識することによって、救いの実体を味わうことができるのです。
皆様が、生まれたばかりの赤ちゃんに帰ることが、幸福に帰ることです。これは、お金をもうけるということではありません。結婚してマイホームを造りたければ造ってもいいですが、そんな事が幸福ではありません。生まれたばかりの純真無垢な状態に帰ることが、本当の幸福です。これをはっきり体験して頂きたいと思います。
（内容は梶原和義先生の著書からの引用）